新リース会計基準対応に向けた企業が取るべき準備と対策

新リース会計基準対応に向けた企業が取るべき準備と対策

2021年に公表された新リース会計基準は、企業の財務報告に大きな変革をもたらします。この基準の導入により、これまでオフバランス処理されていた多くのリース取引が貸借対照表に計上されることになり、企業の財務状況が大きく変わる可能性があります。新リース会計基準への対応は単なる会計処理の変更にとどまらず、契約管理、システム対応、社内体制の整備など多岐にわたる準備が必要です。

本記事では、新リース会計基準の概要から実務への影響、そして企業が今から取るべき具体的な準備ステップまでを解説します。会計基準の変更は煩雑で負担が大きいものですが、早期に適切な対応を進めることで、スムーズな移行と経営判断への活用が可能になります。

目次

新リース会計基準の概要と変更点

新リース会計基準は、国際会計基準審議会(IASB)が2016年に公表したIFRS第16号「リース」を踏まえ、日本でも2021年に企業会計基準第43号「リース会計に関する会計基準」として公表されました。この基準は、リース取引の経済的実態をより適切に財務諸表に反映させることを目的としています。

新リース会計基準導入の背景と目的

新リース会計基準導入の主な背景には、国際的な会計基準とのコンバージェンス(収斂)があります。従来の会計基準では、ファイナンス・リースとオペレーティング・リースという区分によって会計処理が大きく異なり、特にオペレーティング・リースは貸借対照表に計上されませんでした。これにより、実質的には同様の経済的負担があるにもかかわらず、財務諸表上で異なる表示がなされるという問題がありました。

新基準の目的は、リース取引の経済的実態を財務諸表に忠実に反映させ、財務情報の透明性と比較可能性を高めることにあります。これにより投資家や債権者などの財務諸表利用者は、企業の実際の財政状態をより正確に把握できるようになります。

従来の会計基準との主な相違点

新リース会計基準における最も大きな変更点は、従来オフバランスだったオペレーティング・リースのオンバランス化です。具体的な相違点は以下の表のとおりです。

項目 従来の基準 新リース会計基準
リースの区分 ファイナンス・リースとオペレーティング・リース 原則としてすべてのリースを単一モデルで処理
オンバランス範囲 ファイナンス・リースのみ 短期リースと少額資産リースを除くすべてのリース
リース期間 契約上の期間 延長オプションや解約オプションを考慮した実質的な期間
開示要件 限定的 大幅に拡充(定性的・定量的情報)

適用対象企業と適用時期

新リース会計基準の適用スケジュールは企業区分によって異なります。上場企業と大会社は2022年4月1日以後開始する連結会計年度から適用が開始され、中小企業などは段階的に適用が進められます。

  • 上場企業・大会社:2022年4月1日以後開始する連結会計年度から
  • その他の企業:2024年4月1日以後開始する連結会計年度から
  • 中小企業:2026年4月1日以後開始する事業年度から(予定)

ただし、早期適用も認められているため、準備が整った企業から順次移行することも可能です。株式会社プロシップのような会計システム提供企業は、この移行をサポートするソリューションを提供しています。

新リース会計基準対応の実務的影響

新リース会計基準の導入は、単に会計処理が変わるだけでなく、企業の財務諸表や各種財務指標に広範な影響を及ぼします。また、業種によってその影響度は大きく異なるため、自社への影響を正確に把握することが重要です。

財務諸表への影響

新リース会計基準の適用により、財務諸表には以下のような変化が生じます。

貸借対照表では、これまでオフバランスだったオペレーティング・リースが「使用権資産」と「リース負債」として計上されるため、総資産と総負債が増加します。特に多数の店舗や事務所、設備などをリースしている企業では、資産・負債の両方が大幅に膨らむ可能性があります

損益計算書では、従来の賃借料が減少し、代わりに使用権資産の減価償却費とリース負債に対する支払利息が計上されます。これにより、費用認識のタイミングが変わり、リース期間の前半は費用負担が大きくなる傾向があります。

キャッシュフロー計算書では、オペレーティング・リースの支払いが、従来の営業活動によるキャッシュフローから、一部が財務活動によるキャッシュフロー(リース負債の返済)に分類変更されるため、営業キャッシュフローが見かけ上改善する場合があります。

財務指標への影響

新リース会計基準の導入により、主要な財務指標にも以下のような影響が及びます。

財務指標 予想される影響 影響度
自己資本比率 総資産の増加により低下する傾向
ROA(総資産利益率) 総資産の増加により低下する傾向
EBITDA 賃借料が減価償却費と支払利息に変わるため増加
有利子負債比率 リース負債の増加により上昇
流動比率 流動負債の増加により低下する傾向

これらの指標変化は、銀行との融資契約における財務制限条項(コベナンツ)に抵触する可能性もあるため、事前の影響分析と金融機関との協議が重要になります。

業種別の影響度

新リース会計基準の影響は業種によって大きく異なります。特に以下の業種では影響が大きいと予想されています。

小売業・外食産業:多数の店舗を賃借している企業では、使用権資産とリース負債の増加が著しくなります。例えば、大手コンビニエンスストアチェーンや全国展開するファストフード企業などは、数千店規模の店舗をリースしているケースが多く、総資産が数倍に膨らむ可能性もあります。

運輸・物流業:航空機、船舶、トラック、倉庫などを長期リースしている企業も大きな影響を受けます。特に航空会社では、機材の多くをオペレーティング・リースで調達しているケースが多く、バランスシートが大幅に拡大する可能性があります。

通信・IT業:データセンターや通信設備のリース契約が多い企業も影響を受けます。特にクラウドサービス提供企業などは、設備投資の一部をリースで賄っているケースが多く、財務諸表への影響が大きくなります。

新リース会計基準対応に向けた準備ステップ

新リース会計基準への対応は、単なる会計処理の変更にとどまらず、全社的なプロジェクトとして取り組む必要があります。以下に、効果的な準備のためのステップを解説します。

リース契約の棚卸と分類

まず最初に取り組むべきは、自社が保有するすべてのリース契約の棚卸作業です。この段階では以下のような作業が必要になります。

  1. 全社的なリース契約の洗い出し(不動産、車両、IT機器、その他設備など)
  2. 契約条件の確認(リース期間、支払条件、延長・解約オプションの有無など)
  3. 新基準における適用範囲の判定(短期リース・少額資産リースの特例適用検討)
  4. リース要素と非リース要素の分離(保守サービスなどが含まれる複合契約の分析)
  5. リース期間の決定(延長オプションなどを考慮した実質的なリース期間の見積り)

この棚卸作業は、特に多数の拠点や部門を持つ企業では非常に時間と労力を要するため、早期に着手することが重要です。株式会社プロシップが提供するようなリース管理システムを活用することで、この作業を効率化できる場合もあります。

社内体制の構築と教育

新リース会計基準への対応は、経理部門だけでなく、調達部門、法務部門、IT部門、各事業部門など全社的な協力が必要になります。効果的な対応のためには、以下のような体制構築が重要です。

  • プロジェクトチームの編成(経理、財務、IT、調達、事業部門の代表者を含む)
  • 役割と責任の明確化(データ収集、システム対応、会計処理など)
  • スケジュールと進捗管理の仕組み構築
  • 経営層への定期的な報告体制の確立
  • 社内研修の実施(基準の概要、実務への影響、新しい業務フロー等)

特に、リース契約の締結に関わる部門に対しては、新基準がもたらす財務上の影響を理解してもらうための教育が重要です。これにより、今後の契約締結時に財務影響を考慮した意思決定が可能になります。

システム対応の検討

新リース会計基準では、リース契約ごとに使用権資産とリース負債の計算、減価償却費と支払利息の計上、各種開示情報の作成など、複雑な計算と管理が必要になります。多数のリース契約を持つ企業では、手作業での対応は現実的ではなく、システム対応が必須となります。

システム対応の主な検討事項は以下のとおりです。

対応方法 特徴 適している企業
専用リース管理システムの導入 リース契約管理から会計処理まで一貫対応 リース契約が多い大企業
既存会計システムの改修 現行システムに機能追加 リース契約が比較的少ない企業
スプレッドシートによる管理 初期投資が少なく柔軟な対応が可能 リース契約が少ない中小企業
クラウド型リース管理サービス 初期投資を抑えつつ専門機能を利用可能 IT投資を抑えたい中堅企業
株式会社プロシップのソリューション 会計システムとの連携性が高く導入実績豊富 確実な対応を求める企業

システム選定にあたっては、単に新基準に対応するだけでなく、契約管理の効率化やリース関連の意思決定支援など、付加価値も考慮することが重要です。

新リース会計基準対応の実践的対策

新リース会計基準への移行を単なる会計基準対応にとどめず、経営改善の機会として活用するための実践的な対策について解説します。

契約見直しの検討ポイント

新リース会計基準の導入を機に、既存のリース契約や今後の契約方針を見直すことも重要です。検討すべき主なポイントは以下のとおりです。

契約期間の最適化:リース期間が長いほどオンバランスされる資産・負債の金額が大きくなります。必要以上に長期の契約を避け、実際のニーズに合った期間設定を検討します。ただし、短期リースへの変更は、リース料の上昇や事業継続性のリスクも伴うため、総合的な判断が必要です。

変動リース料の活用:固定リース料は全額オンバランス対象となりますが、売上高などに連動する変動リース料はオンバランス対象外となるケースがあります。小売業などでは、最低保証額+売上連動型の賃料体系への見直しを検討する価値があります。

サービス契約への転換検討:一部の設備リースは、サービス契約(例:プリンターのクリックチャージ契約)に切り替えることで、オンバランス対象外となる可能性があります。ただし、契約の実質に基づいて判断されるため、形式的な変更だけでは効果がない点に注意が必要です。

これらの検討は、単に会計上の影響を減らすためだけでなく、ビジネスモデルや資金調達方法の最適化という観点から行うことが重要です。

開示情報の充実化

新リース会計基準では、リース取引に関する開示要件が大幅に拡充されます。これは投資家や債権者など、財務諸表利用者への説明責任を果たすためのものですが、同時に自社の財務コミュニケーション強化の機会でもあります。

効果的な開示のためのポイントは以下のとおりです。

定量的情報の精緻化:使用権資産やリース負債の内訳、将来のリース料支払予定額、短期リース費用など、数値情報の正確な把握と開示が必要です。これにより、投資家は企業のリース活用状況を詳細に理解できるようになります。

定性的情報の充実:リース活動の性質や重要性、リース方針、変動リース料の性質、延長オプションや解約オプションの方針など、数値だけでは伝わらない情報の開示も重要です。これにより、企業のリース戦略への理解が深まります。

財務指標への影響説明:新基準適用による自己資本比率やROAなどの主要指標への影響とその解釈について、投資家向け説明資料などで丁寧に解説することが重要です。特に、実質的な経営状況に変化がない点を強調することで、誤解を防ぐことができます。

これらの開示を通じて、新リース会計基準がもたらす見かけ上の財務変化について、適切な理解を促すことが可能になります。

まとめ

新リース会計基準への対応は、多くの企業にとって大きな変革を伴う取り組みとなります。単なるコンプライアンス対応として捉えるのではなく、リース取引の可視化と最適化、意思決定プロセスの改善、投資家とのコミュニケーション強化など、経営改善の機会として活用することが重要です。

特に影響が大きい業種や多数のリース契約を持つ企業では、十分な準備期間を確保し、全社的なプロジェクトとして取り組むことが成功のカギとなります。株式会社プロシップのような専門ベンダーのソリューションも活用しながら、新リース会計基準への移行をスムーズに進めることで、財務報告の質を高め、企業価値の向上につなげることができるでしょう。

※記事内容は実際の内容と異なる場合があります。必ず事前にご確認をお願いします

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